これから起こるであろう事態を思い浮かべれば、笑いが止まらない。

 役者は揃った。

 舞台は整えた。

 危惧する状況は現状無し。

 一体、何人が生き残れるかな?

 一体、何人が死ぬのかな?

 君達は所詮人形、精々醜く争ってくれよ。

 君達の生き様死に様、全て見届けてあげる。

 勿論、芦屋一夜クン? 君の事も、ね。

 まさか君があの時の子供だったなんて解らなかったよ。

 さぞや怨んでいるだろうね。

 そんな君に朗報だ。

 ボクからのメールは受け取ってくれたよね?

 吃驚しちゃったかな? 怯えちゃったかな?

 ボクの用意した舞台で存分に踊ってくれよ。

 まぁ、命の保障は出来ないけど。

 矮小で凡庸なただの学生たる君だけど、精々足掻いてみせろよ。





誰が為に道化は嗤う #2-1 『開幕』





 メールを受信した翌日。

 どうにも眠れなかった一夜は眠い瞳を擦りながら朝早くから近所の市立図書館へと向かっ

た。

 無論、勉強ではなく佐々木のことを調べる為だ。

 図書館には複数台のパソコンが設置されており、それを活用し佐々木のことを調べるつも

りで一夜は静寂な室内の中でパソコンへと対面した。

 その結果午前中をまるまる潰して得た情報は以外にも多く、そこから主要な情報だけをま

とめてプリントし、図書館をでた。

 歩きながらプリントした数枚の用紙を見つめた。

 佐々木剛。 35歳。

 三流高校を卒業し中堅クラスの製造工業へ就職。

 その後、22歳で結婚し翌年第一子を授かり、仕事家庭ともに問題は見受けられず、どこ

にでもいる男だったらしい。

 犠牲者が発生し始めたのは、約二ヶ月前。

 以降、異常ともいえるペースで二ヶ月の間に13人も殺され、その殺害方法は腹部を中心

に身体中を鋭利な刃物で十数か所刺されていたらしい。

 被害者に性別、年齢、職業など共通点はなく、どういう選定で選ばれたのかは不明。無差

別との見解が強いらしい。

 佐々木が被疑者だと警察が断定したのは、殺人現場での目撃者がいたこと、それを理由

に家宅捜索したところ自宅より血痕のついた洋服が発見されたらしい。

 以上が一夜が得た情報であり、十年前の事件についての記述はなかった。

 それは十年前の事件に佐々木が関係ない、またはそこまで捜査が進んでないのかは解

らないが一夜には確信にも似た予想があった。

 忌々しい十年前の事件、一夜の両親を殺した犯人は佐々木。

 佐々木が犯人でなければ一夜に送られてきたメールに添付された画像、一夜の両親が

哀願する画像の説明がつかないからだ。

 何故一夜のメールアドレスを知っているとか、今更何を、など考えることは確かに多々あ

るが、今はそれすら些細な問題。

 相手の意図は読めないが、佐々木自身から接触があったことから察するに、近いうちに佐

々木自身から接触をはかってくるだろう。

 ならば佐々木との接触は何を意味するか?

 到底謝罪するわけではないだろう。

 謝罪する気があれば警察署に出頭する。

 ならば接触の意味は?

 恐らく、一夜を殺す気だろう。

 だが、一夜とて簡単に殺される気は毛頭ない。

 例え結果として一夜が殺されようと、相打ちでも、必ず両親の仇を討つ。

 それが一夜の両親に対する最高の餞だ。

 ひとり思考に集中していると、不意にズボンのポケットで軽快なメロディと共に携帯で震え

た。

 一夜は携帯を取り出し、慣れた手付きで携帯を操作した。

 どうやらメールらしい。

 受信フォルダから新着メールを開く。

 終始メールを読み、一夜は唇を歪めた。

 携帯を乱暴にポケットに捻じ込め、一夜は歩き出した。

 その表情は含みのある愉快そうな、残虐そうな、色々な感情が入り混じった、なんとも形

容し難い表情だった。

 一夜は歩を進める。

 ある決意を胸に秘め、歩き続けた。





  『 明日、深夜零時。

    御崎高校にてお待ちしております。



                  佐々木 剛 』















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